先日、無事に約3ヶ月間の中国出張から帰国いたしました。初めての上海生活では、今まで想像していた中国とは全く異なる世界でした。これには、2つの理由が考えられます。1つは、日本ではテレビや新聞、雑誌の報道で中国の姿を知ることが多いかと思いますが、様々な事情に配慮された情報のみが流れていることです。もう1つは、流通している情報が日本人の視点に立って伝えられていることです。つまり、日本人視点で中国の姿を考えると、どうしても一定のバイアスが掛かりそれは真実の姿を正確に伝えることには繋がらなくなります。
僅かな期間ですが、初めての中国で感じたことをそのまま伝えてみたいと思います。まずは「消費」という面から考えてみます。
【「消費」について】
ご存知のように、コロナが流行し徹底的に封じ込めに取り組んだ中国は、僅か数ヶ月後には、徐々にではありますが社会活動の再開が始まりました。
私が上海に入った8月の終わり頃の状況としては、地下鉄やバス、高鉄(日本の新幹線)などを利用する際にはマスクの着用と検温が実施され、一部の大型施設やオフィスが入る大型ビル等に入る際に健康コードの提示を求められる程度でした。
実際、検温については「実施している」との雰囲気的なもので厳格に運用している感じではありません。ただ、私のような外国人(日本人)に対しては、ホテル等では隔離証明書やPCRの陰性証明書の提示を求められることもありました。
街を歩く、カフェに入る、人と会うなど、普通の生活の中では、日本のようにマスク着用を求められることはありません。仕事の場面でも、日本のように必ずしもマスクを着用、ソーシャルディスタンス確保等はなく、お互いが納得していれば、どちらでも良しといった感じです。
つまり、ある一定の制限やルールはあるものの普段通りの生活が営まれていました。
この、「普段の通りの生活」が営まれると、消費がどうなるのか考えてみます。
① 人が動き出すと消費に繋がる
思い起こすと、日本でも緊急事態宣言の時、欧米程ではないにしろ外出自粛となりました。これを機に、日本ではリモートワークへの取り組みも進み経済も動いているようでしたが、社会全体では経済活動が著しく弱ったのではないでしょうか。
つまり、普段の生活に制限が加われば、人の動き、流れに変化が生じ(悪い方)、結果として消費が減退していくと言うことが明らかになりました。もちろん、長い目でみて新しいライフスタイルが生まれれば、流れが変わることも有るかと思いますが、一時的には悪い流れになってしまいます。
今まで人が動いていた時は、必ず外で消費をする訳で、交通機関も飲食店もホテルも百貨店やSCの買い物など家から一歩出る事で生まれる消費ばかりでした。逆に言うと、家の中でネットショッピングで済ませない限り、外に出て使うお金は全てなんらかの消費だった訳です。
そう考えると、上海においては普段の生活が戻ってきていますので、かなりの消費活動が行われています。実際、地下鉄やバス、高鉄も混雑していますし、手軽なファーストフードから少し高めのレストランも賑やかな状況です。
もちろん、日本のようにソーシャルディスタンスもありませんし、アクリル版の衝立もありません。ブランドショップ等にも人は集まっていて、本当に世界的なコロナ禍なのかと思ってしまう程です。
先日の国慶節では、中国国内で6億人が移動したとの報道がありました。私も、上海近郊に足を延ばしましたが、行く所行く所、大勢の人です。勿論、冒頭にお伝えした通り交通機関でのマスク着用や市や省をまたいだ際には健康コードを提示する等のルールはありますが、その中で大変大勢の方が移動していました。
日本の観光庁は6日、政府の観光支援事業「Go To トラベル」で支援した額が7月22日から9月15日までの間(約2ヶ月間)に少なくとも735億円だったと公表しました。
利用者数は延べ1689万人だったとありましたが、中国の6億という数字がどれだけ凄い経済活動を生み出しているのか、日本の数字と比較すると良く分かるかと思います。
中国では既に、国内全体で経済活動が活発になってきています。
② 経済的な余裕があると消費に繋がる
これは当たり前の話ですが、今年は少し事情が異なっています。ここ半年の間、中国だけではありませんが「海外に行けない」状況が続いています。
中国で海外旅行する方は一体どんな方なのか?
中国の人口はおよそ14億人、対して、2017年の中国人の出境旅行者数(外国への旅行に加え、香港・マカオ・台湾への渡航を含む。)は約1億4,200万人。約1割の方が海外に行かれています。
ちなみに、訪日の人数は2019年で約960万人。海外行かれている中で訪日している方は、僅か約1%以下です。そして、訪日に限って言うと、一度の旅行で大体20万円程度を使っています。旅費や滞在時間を考えると欧米に行かれた場合は、もう少し使われているかと予想できます。
そして、今年は、このお金達の行き先が無くなっているということです。
コロナが落ち着いてきた今、この行き先を見失っていたお金の使い道として、中国国内の消費に向かい始めました。
実際、政府もコロナ禍で海外に落とされていたお金が国内に回っていることに着目しているようで、北京を訪問した際、今後は、国内消費を喚起していく施策を取っていくとの話も聞きました。
もともと、中国政府は国内産業を保護するため外国製品に対して高い関税を課している一方で、外資系企業は中国国内での販売価格を自国より高めに設定していることもあって、旅行先で買うほうが中国国内で買うよりも割安になっていました。そのため、旅行中に日用品や高級ブランド品などをまとめ買いする傾向が見られていました。
この旅行中の買い物が出来ない、ならば国内で買わせる、納得いく流れ(施策)かと思います。
この流れは、大きなポイントに成るかと思います。
③ 制限からくる欲求が消費に繋がる
最後3つ目には、行動を制限されることから湧き上がる欲求が、消費に繋がっていることです。
「海外に行けないからこそ国内旅行へ」とか「海外に行って買い物出来ないからネットで買おう」とか、「子どもがいて遠くに行けないから、近くで遊んで美味しいもの食べよう」とか、、、。
実際、今年の国慶節では上海の地元幼稚園、小中学校やインターナショナルスクールでは、「連休は上海市内を出ないで」と通知を出ていたようです。
もちろん、任意としていると学校が多いものの、仮に上海市外へ移動した場合、それぞれの学校で対応は異なるようですが、14日間の通園・通学禁止、つまり「自宅隔離」が必要になるところもあったようです。
このように人は制限されることで我慢を強いられ、それが消費という形となって表れていると考えられます。日本でも非常事態宣言時に、解除されたら●●したい、●●行きたい等、良く聞かれてと思います。全世界的にみても、我慢こそ最大のセールスプロモーションかもしれません。
GDPもプラスへ
以上、消費について3つの視点から考えてみました。中国では、コロナという出来事から再生に向かう中で様々な事が重なりあい消費に繋がり始めています。
実際、10月19日に中国が発表した7月~9月期のGDPは実質ベースで4.9%増加、2期連続のプラスです。4~6月期の3.2%増から加速しています。
世界では感染者が増加している国もある中で、着々と経済再生に進んでいる国、それが中国です。
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